── 計画は完璧だった。IPAが「同時受験不可」と言うまでは。
この記事について 2026年度からIPA高度試験がCBT化されるのを見据えて、「生成AIを使ってST(ITストラテジスト)とSA(システムアーキテクト)を同時に受ける」計画を立て、専用の学習アプリまで作った記録です。
結論から言うと、同時受験はIPAに封じられました。 そればかりか、2027年度からはST・SAという試験区分そのものがなくなります。 でも、そこに至るまでに生まれた学習方法論とアプリ構想は、新制度でも論述式試験に挑む人にとって十分に役立つものになりました。
3部構成でお届けします。
- 【第1部】 なぜST×SAの同時受験を思いついたのか
- 【第2部】 生成AIで作り上げた「1PJ使い回し」攻略法の全貌
- 【第3部】 専用アプリ「STSAドリル」と、二重に封じられた後の展望
この記事で解説する学習フローは、筆者が開発したiPadアプリ**「STSAドリル」**でそのまま実践できます。アプリがなくても紙とWordで実行できる内容です。
【第1部】なぜST×SAの同時受験を思いついたのか
CBT化がもたらす「革命」
2025年8月、IPAが衝撃的な発表をしました。
応用情報技術者試験と高度試験が、2026年度からCBT方式に移行するというのです。これまで「春の特定の日曜日」「秋の特定の日曜日」に一斉実施されていた試験が、一定期間内に受験者が自分で日時を選んで受けられるようになる。しかも科目Aと科目Bを別日に受けてもよい。
この発表を見た瞬間、ある考えが浮かびました。
「日をずらせるなら……STとSAを両方受けられるのでは?」
STとSAはどちらも前期試験(従来の春期に相当)に属する試験区分です。これまでは同じ日曜日に一斉実施だったので、物理的にどちらか一方しか選べませんでした。CBT化で試験日が「期間」になれば、前期の期間内に別々の日を予約してダブル受験できるのではないか——そう考えたのです。
生成AIとの壁打ちで計画を練る
この着想を、生成AIに壁打ちしました。そこから「なぜST×SAの組み合わせが最強なのか」「同じプロジェクトを題材にして大丈夫なのか」「受験順序はどうすべきか」といった論点が次々に深掘りされていきました。
なぜST×SAが「最強の組み合わせ」なのか
高度試験の中で論文(午後Ⅱ)があるのは、ST、SA、PM、SM、AUの5区分。この中でSTとSAは、同じプロジェクトの「上流」と「下流」を担う兄弟のような関係です。
論文試験の最大の難所は「何を書くか(ネタ)」。技術知識ではありません。
- STの論文: 「なぜこの投資をするのか」「経営層にどう説明したか」を書く
- SAの論文: 「どう設計したか」「なぜこの技術を選んだか」を書く
同じプロジェクトのカメラのアングルを変えるだけで、2つの試験に対応できます。
同じプロジェクトを使い回して問題ないのか?
結論から言うと、問題ありません。IPAの採点では、STの採点者とSAの採点者が答案を突き合わせることはありません。それぞれの試験単体で評価されます。
実務でも、企画を立てた人がそのまま設計責任者を兼務することは珍しくありません。論文冒頭の「立場」を適切に書き分ければ整合性は取れます。
生成AIが「視点の切替」を加速する
従来の試験対策テキストでは「骨子(論文の構成案)を3つ準備せよ」がセオリーでした。でも生成AIがある今、発想を逆転できます。
「薄い骨子を3つ」ではなく、「極めて解像度の高い骨子を1つ」作り、あらゆるテーマに当てはめる。
AIに「この過去問のテーマで、自分のPJならどう書く?」と聞けば、エピソードの組み替えを瞬時に提案してくれます。1つのプロジェクトを「骨までしゃぶり尽くす」方が、採点者の深掘りにも耐えうる論文が書けるのです。
生成AIとの対話で見えてきた「5ステップ計画」
生成AIと壁打ちを重ねるうちに、学習計画の輪郭が見えてきました。
ステップ1:生成AIで「自分のプロジェクト」を作る
ステップ2:生成AIで「最強プロンプトセット」を作る
ステップ3:午後Ⅰ過去問を「午後Ⅱのネタ」に変換する
ステップ4:骨子を使って午後Ⅱを反復練習する
ステップ5:CBTの別日受験を活かして受験する
この計画のキモはステップ3です。
午後Ⅰ(記述式)の問題文は、IPAが公式に作った「理想的なプロジェクトの縮図」。これを「午後Ⅱ(論文)のネタ帳」として逆輸入するのです。午後Ⅰの事例を「自分の論文で使うならどう展開するか」と読み替える訓練をすれば、論文のストーリー構築力がつくし、結果的に午後Ⅰ対策にもなります。一石二鳥。
【第2部】生成AIで作り上げた「1PJ使い回し」攻略法の全貌
「視点の切替」こそが最大のスキル
1つのプロジェクトをST/SAで使い回す上で、最も重要なスキルは「視点の切替」です。
同じ事実でも、STとSAでは書き方がまったく違います。例えば——
事実:「顧客マスタが3つのシステムで三重管理されていた」
-
ST(経営視点)で書くと:「同一顧客への二重提案が月平均28件発生し、年間約2億円の機会損失が生じていた。私はこの状況を『何もしないコスト』として経営層に提示し、基盤への投資判断を後押しした。」
-
SA(技術視点)で書くと:「法人名の表記揺れにより約1,200件の重複レコードが存在し、重複率は15%に達していた。私は法人番号による決定的マッチングとJaro-Winkler距離0.92以上の確率的マッチングを組み合わせた名寄せロジックで重複率を0.8%に低減した。」
STは金額(2億円の機会損失)で語り、SAは技術仕様(Jaro-Winkler距離0.92)で語る。同じ事実、まったく異なる文体。
「視点切替ドリル」のやり方
この書き分けを反射的にできるようにするのが「視点切替ドリル」です。
1つの事実を選んで、タイマー3分でST版を書く。もう3分でSA版を書く。模範回答と比較する。これを10問繰り返します。
面白いのは、このドリルをやっていると自分の「癖」が見えることです。技術寄りの人はST論文でも設計の話をしがちだし、企画寄りの人はSA論文でも「投資判断」に逃げがちです。
生成AIで作る「5点セット」
計画全体の成果物は以下の5つ。すべて生成AIとの対話で作ります。
| # | 成果物 | 何のために使うか |
|---|---|---|
| 1 | PJ記憶プロンプト | AIに毎回プロジェクト情報を記憶させる |
| 2 | ST汎用骨子テンプレート | ST論文の骨子をテーマ別に組み立てるガイド |
| 3 | SA汎用骨子テンプレート | SA論文の骨子をテーマ別に組み立てるガイド |
| 4 | 質問書(論述概要シート) | 本番冒頭の概要記入の事前準備 |
| 5 | 視点切替ドリル | ST/SAの視点を瞬時に切り替える訓練 |
骨子テンプレートは「5セクション構成」で設計しました。
- 共通プロファイル(企業概要・投資規模等)
- エピソード一覧(ID付きの使い回しネタ群)
- テーマ別 骨子組み立てガイド(テーマ×設問×エピソードのマッピング)
- 共通チェックリスト(設問ア・イ・ウの必須要素)
- キーワード一覧(ST用は経営用語、SA用は技術用語)
このテンプレートがあれば、どんな出題テーマが来ても「テーマ別ガイドを見る → 使うエピソードを選ぶ → 書く」の3ステップで骨子が組み立てられます。
壁打ちプロンプトの「評価観点8項目」
生成AIに論文を壁打ちしてもらう際、「どうですか?」と聞いても表面的なフィードバックしか返ってきません。
そこで、採点者の視点を再現する8項目の評価観点を固定しました。
【構成面】 (1)設問間の論理的整合性 (2)文字数バランス (3)出題要求事項への網羅性
【内容面】 (4)具体性(数値・固有名詞) (5)主体性(「私は〜した」) (6)工夫の独自性 (7)評価の客観性
【視座面】 (8)STなら経営層への説明の具体性 / SAなら技術的設計判断の根拠と代替案比較
この8項目をプロンプトに含めておけば、毎回安定した品質のフィードバックが得られます。
質問書も「書き分け」が必要
意外と見落としがちなのが、論文冒頭の「質問書(論述の概要シート)」です。
| 質問項目 | ST用 | SA用 | 書き分けの理由 |
|---|---|---|---|
| ① 名称 | 「〜IT戦略の策定」 | 「〜基盤の設計」 | 視座レベルを示す |
| ⑧ 総工数 | 150人月(全フェーズ) | 80人月(Phase1のみ) | STは全体、SAは設計対象に限定 |
| ⑨ 総額 | 3.5億円(全フェーズ) | 1.5億円(Phase1のみ) | 同上 |
| ⑫ 担当業務 | 事業戦略策定、IS戦略策定 | 要件定義、設計・開発 | 役割の違いを明示 |
同じプロジェクトでも、スコープの切り方で採点者に「この人はちゃんとSTの視座(あるいはSAの視座)で書いている」と伝わります。
【第3部】専用アプリ「STSAドリル」と、二重に封じられた後の展望
計画はアプリ開発にまで発展した
学習計画が体系化されてくると、次に思ったのは「これ、アプリにできるのでは?」ということ。
特に以下の作業は、毎回手動でやると地味に面倒です。
- 午後Ⅱ問題に相性の良い午後Ⅰ問題を探す
- 壁打ちプロンプトを毎回手動で組み立てる
- 論文の文字数を手動カウントする
- ST/SAの解答を別ファイルで管理する
そこで、iPad専用の学習アプリ「STSAドリル」の要件定義を作りました。主な機能は以下の通りです。
午後Ⅰ × 午後Ⅱマッチング: 午後Ⅱ問題を選ぶと、事前定義のマッチングテーブルに基づいて「相性の良い午後Ⅰ問題」が自動提示される。
2画面分割エディタ: iPadの画面を左右(または上下)に分割して、左に問題文、右に下書きを並べて表示。問題文を読みながら書く体験ができます。
リアルタイム文字数カウント: 設問ア・イ・ウごとに、目標文字数範囲に対する達成状況を3色で色分け表示。
壁打ちプロンプト自動生成: ボタン1つで、試験区分・解答本文・評価観点8項目が埋め込まれたプロンプトが生成される。クリップボードにコピーして外部LLMに貼り付けるだけ。
骨子演習モード: テーマを選ぶとSTとSAの過去問ペアが提示され、ST→SAの順で同じテーマを連続練習できる。
バージョン管理: 1つの問題に対して最大5バージョンの解答を保持。1回目と3回目を見比べて上達を実感できます。
第一の衝撃:「同時受験不可」
アプリの要件定義まで作り上げた2026年2月24日。IPAが公式に発表しました。
「前期試験、後期試験いずれも申込みは1回のみとする予定です。前期試験、後期試験それぞれで複数の試験区分や複数回の申込みはできません。」
CBT化で試験日の自由度は上がったものの、1つの期間で受けられるのは1区分のみ。STとSAを同じ前期に同時受験する計画は、ここで潰えました。
しかもSTとSAは両方とも前期試験です。「前期でST、後期でSA」という逃げ道もありません。後期の試験区分にはPM、DB、ES、AUが並んでおり、ST・SAは含まれていないのです。
つまり、2026年度にSTとSAの両方を取ることは物理的に不可能です。
第二の衝撃:「ST・SAという試験区分がなくなる」
追い打ちをかけるように、2026年3月31日、IPAは試験制度の抜本的な見直しを発表しました。
2027年度から、現在の高度試験(ST、SA、PM、SM、AU、DB、NW、ES)は廃止され、「プロフェッショナルデジタルスキル試験」という新しい体系に統合・再編されます。
新しい試験区分は3つです。
- マネジメント領域:組織やビジネスにおけるデジタル活用プロセスのマネジメント
- データ・AI領域:データドリブンな活動を支える基盤構築とデータ整備
- システム領域:システムの要件定義・アーキテクチャ設計・開発・運用
STとSAは、おそらく「マネジメント領域」と「システム領域」にそれぞれ吸収されると思われますが、現行の「ITストラテジスト試験」「システムアーキテクト試験」として受験できるのは2026年度が最後です。
つまり、ST×SAの同時合格は、過去にも未来にも実現し得ない幻の計画だったということです。
それでも「戦略は死んでいない」
がっかりしたのは事実ですが、冷静に考えると、この計画で作り上げた方法論は制度が変わっても生き続けます。
新制度でも「視点の切替」は武器になる
新しい「プロフェッショナルデジタルスキル試験」でも、マネジメント領域とシステム領域は別の試験区分として存在します。もし両方を取りたいなら、同じプロジェクトを「マネジメント視点」と「システム視点」で語り分けるという戦略はそのまま使えます。
視点切替ドリル、骨子テンプレート、壁打ちプロンプトの8項目——これらはすべて「同じ事実を異なる視座で語る訓練」であり、試験区分の名前が変わっても本質は変わりません。
2026年度に1区分だけ取る人にも有効
ST・SAの同時受験を前提にしなくても、この計画で確立した方法論は1つの試験区分を受ける人にとっても有効です。
- 「1PJしゃぶり尽くし」戦略: 骨子を3つ作る代わりに、1つを極限まで深掘りする
- 「午後Ⅰ→午後Ⅱ逆輸入」戦略: 午後Ⅰの事例を論文ネタに変換する
- 「壁打ち8項目」: 生成AIから安定したフィードバックを得る仕組み
- 「5セクション骨子テンプレート」: どのテーマが来ても骨子を15分で組み立てる
アプリ「STSAドリル」も汎用ツールとして使える
アプリの名前は「STSAドリル」ですが、実態としてはPM/AU/SMの論文対策にも使える汎用的な論述練習ツールです。午後Ⅰ×午後Ⅱマッチングと壁打ちプロンプト生成は、どの区分でも同じように機能します。
新制度の「プロフェッショナルデジタルスキル試験」でも論述式問題は残る見込みです(科目Bの出題形式は検討中ですが、現行の知識・技能の範囲は維持される方針)。アプリの骨格はそのまま活かせるでしょう。
まとめ:生成AI時代の試験対策で見えた3つのこと
この一連の取り組みを通じて見えてきた本質は3つです。
1. 「量」ではなく「深さ」で勝負する。 薄い骨子を3つ暗記するより、1つのプロジェクトを骨までしゃぶり尽くす方が強い。生成AIが「深さ」を出すための壁打ち相手になってくれる。
2. 「視点の切替」が最大のスキル。 同じ事実を経営視点/技術視点/管理視点で語り分けられる力は、試験対策を超えて、実務でのCxO報告や設計レビューの使い分け力にも直結する。
3. 生成AIは「答えを教えてくれる先生」ではなく「壁打ちの相手」。 AIが作った論文をそのまま暗記しても本番では再現できない。AIと対話しながら「自分の言葉」を見つけるプロセスそのものが最強の試験対策になる。
計画は二重に封じられました。同時受験も、試験区分そのものも。
でも、「1つのプロジェクトを多角的に深掘りし、視点を切り替えて語り分ける」という方法論は、試験の名前が何であれ、生き続けます。
2026年11月の前期試験に向けて、まずは1区分から。生成AIを相棒に、挑戦は続きます。
この記事で紹介した学習法の要素
- 1PJ使い回し戦略(骨子テンプレート5セクション構成)
- 午後Ⅰ→午後Ⅱ逆輸入戦略
- 視点切替ドリル(ST/SAの書き分け訓練)
- 壁打ちプロンプトの評価観点8項目
- 質問書(論述概要シート)のST/SA書き分け
- iPad学習アプリ「STSAドリル」構想
いずれも、ST/SAに限らず論述系高度試験全般、そして2027年度以降の新制度にも応用できる考え方です。
この学習計画を、iPad 1台で回すために作ったアプリ
最後に改めて紹介させてください。要件定義まで作成していたiPad専用の学習アプリ「STSAドリル」を完成させ、リリースしました。 STとSAの両方を取ることは物理的に不可能になりましたが、どちらかでの活用のみも十分有意義ですし、試験とは関係なくSTとSAの「視点の切替」は武器になると思います。
主な機能は以下の通りです。
午後Ⅰ × 午後Ⅱマッチング: 午後Ⅱ問題を選ぶと、事前定義のマッチングテーブルに基づいて「相性の良い午後Ⅰ問題」が自動提示される。
2画面分割エディタ: iPadの画面を左右(または上下)に分割して、左に問題文、右に下書きを並べて表示。問題文を読みながら書く体験ができます。
リアルタイム文字数カウント: 設問ア・イ・ウごとに、目標文字数範囲に対する達成状況を3色で色分け表示。
壁打ちプロンプト自動生成: ボタン1つで、試験区分・解答本文・評価観点8項目が埋め込まれたプロンプトが生成される。クリップボードにコピーして外部LLMに貼り付けるだけ。
骨子演習モード: テーマを選ぶとSTとSAの過去問ペアが提示され、ST→SAの順で同じテーマを連続練習できる。
バージョン管理: 1つの問題に対して複数の解答を保持。1回目と3回目を見比べて上達を実感できます。
- 過去5年分(2019〜2025年度)の午後Ⅱ問題を同梱
- iPad専用・買い切り(サブスク・広告なし)・完全オフライン動作
- 解答データは端末内のみに保存(外部送信なし)。壁打ちはプロンプト生成→お好みのAIにコピペする方式なので、ChatGPTでもClaudeでも使えます
この記事は、生成AI(Claude)との対話を通じて計画を練り上げた実際の過程をもとに構成しています。