この記事でわかること

  • 2次試験で合否を分ける「たった一つの大原則」
  • 過去10年(2016〜2025年・全230設問)の実データから見えた頻出用語と出題トレンド
  • 事例Ⅳ・事例Ⅰ〜Ⅲそれぞれの「力の入れどころ」の優先順位

こんな人に向けて書いています:1次試験を終えて(あるいは合格見込みで)2次対策を始めたものの、「何から手をつければいいか分からない」「模範解答がない試験でどう勉強すればいいのか」と感じている受験生。


中小企業診断士の2次試験は、4つの事例(中小企業の物語)を読んで記述で答える試験です。1次試験のように「知識を覚えれば取れる」わけではなく、公式の模範解答も存在しません。

このシリーズでは、過去10年分(2016〜2025年、計230設問)を実際にデータ分析した結果をもとに、「どこに力を入れれば合格に近づくか」を数字で示しながら攻略法をまとめます。第1回は、試験の本質と出題傾向の全体像です。

筆者はこの分析データをもとに、2次試験(事例Ⅰ〜Ⅲ)対策のiPadアプリ「事例ドリル」を開発・公開しています。本シリーズはその学習設計の土台になった分析を、アプリを使わない人にも役立つ形で公開するものです(アプリの話は記事の最後に少しだけ)。


2次試験の本質:たった一つの大原則

最初に、合否を分ける大原則を押さえます。

解答はすべて「与件文(事例文)の根拠」に基づかなければならない。

どれほど論理的で美しい文章でも、与件文に書かれていない情報を使った解答は採点されません。逆に言えば、与件文の中に答えの種はすべて埋まっています。

ここでよく誤解されるのが、フレームワーク(SWOTや3Cなど)の役割です。フレームワークは与件文の情報を整理するための道具であって、フレームワークを使うこと自体が目的ではありません。「与件文に散らばった情報を、採点者に伝わる切り口で漏れなく拾い上げる」ためにフレームワークがある、と理解してください。


4つの事例と配点構造

2次試験は次の4事例で構成されます。

事例 テーマ 中心となる道具
事例Ⅰ 組織・人事 SWOT・競争戦略・成長戦略・組織構造
事例Ⅱ マーケティング・流通 3C・SWOT・STP・4P
事例Ⅲ 生産・技術 QCD・生産管理・バリューチェーン
事例Ⅳ 財務・会計 経営分析・CVP・NPV(計算中心)

各事例100点、合計400点。各事例60点以上(かつ総点で基準クリア)が合格ラインです。1事例でも40点を下回ると足切りになるため、「得意で稼ぐ」より「全事例で安定して60点を取る」発想が重要です。


ここからが本題:過去10年のデータ分析

ここからは、過去10年分の設問230問を分析して見えてきた事実を紹介します。「なんとなく頻出らしい」ではなく、実際に何が・何回・どの年に問われたかという数字です。

設問はどう分布しているか

230問を事例別に見ると、事例Ⅳ(財務)の設問数が突出しています。これは事例Ⅳが小問(設問1・2・3…)に細かく分かれるためです。財務は「用語=計算手順」が直接得点になるので、設問文にも専門用語がそのまま現れやすいという特徴があります。

一方、事例Ⅰ〜Ⅲは設問文に専門用語が直接出る頻度は低めです。なぜなら、概念は与件文の側で問われ、設問では「理由を述べよ」「助言せよ」という形で間接的に問われるからです。この性質の違いが、事例ごとの対策の違いに直結します。


事例Ⅳ(財務)の出題傾向

設問文に直接現れる頻度が高い順に、財務の最重要用語を見てみましょう。

ほぼ毎年出る「鉄板」用語

用語 10年中の登場年数 ひとことで言うと
固定費 10年 CVP分析・損益分岐点の前提
変動費 10年 限界利益の計算に直結
減価償却費 8年 CF計算で利益に足し戻す
キャッシュフロー 9年 投資判断の基礎
税率 8年 税引後CFの計算に必須
財務指標 10年 第1問・経営分析の定番

固定費・変動費は10年すべてで登場。CVP分析(損益分岐点)と経営分析は、事例Ⅳの不動の土台です。

近年の重大トレンド:投資意思決定への重心移動

過去10年を前半5年(2016-20)と後半5年(2021-25)に分けて比較すると、はっきりした変化が見えます。

用語 前半5年 後半5年 変化
投資案 0回 7回 急増
設備投資 0回 5回 急増
処分価額 0回 5回 急増
年金現価係数 1回 8回 急増
複利現価係数 2回 8回 急増
正味現在価値(NPV) 2回 6回 増加

設備投資の採否をNPV法で多段階に解く問題が、近年の最重点になっています。 前半5年はゼロだった「投資案」「設備投資」「処分価額」が後半5年で軒並み登場しているのは、見過ごせない変化です。

対策としては、現価係数・年金現価係数の使い分け、税引後CFの算出、設備売却時の処分価額の課税処理——この一連の流れを正確に解けるようにすることが、直近では最優先になります。

注意:売上高・損益といった基礎項目は、単独用語としての出現はむしろ減っています。ただしこれは「計算の前提として暗黙化した」だけで、重要性が下がったわけではありません。基礎を飛ばして応用に進むのは禁物です。


事例Ⅰ〜Ⅲ(財務以外)の出題傾向

財務以外は、用語が設問に直接出にくいため、関連語ベースで「どの概念が問われ続けているか」を見ます。

全事例を横断する最重要概念

用語 登場年数 登場事例数 コメント
顧客 10年 3事例 全事例の出発点。「誰に」価値を届けるか
戦略 9年 3事例 方向づけの一貫性
新規事業 7年 3事例 後半5年で増加した最大トレンド
強み 9年 3事例 SWOTの核。助言の根拠の起点

「顧客」は10年連続・3事例横断で、まさに2次試験の中心概念です。

近年のトレンド:「強み × 新規事業 × 組織」の連動

財務以外でも、前半5年と後半5年で変化が見えます。

  • 新規事業(前半5回→後半9回)と強み(4回→8回)が後半で増加。
  • これは「自社の強みを活かした新規事業展開を、組織・人材面でどう支えるか」という連動した出題が増えていることを意味します。
  • 弱み(2→5)、体制などの構築(1→4)も増加傾向。SWOT・3Cで現状を分析し、根拠をもって助言する流れが強まっています。

事例Ⅱ第1問は「SWOTか3Cか」の定番枠

事例Ⅱの第1問は、SWOT分析と3C分析がほぼ毎年、年替わりで出題される定番枠です。

  • SWOT:2019・2020・2021・2024
  • 3C:2018・2022・2023・2025

どちらが出ても書けるように、両方の型を仕上げておくのが鉄則です(具体的な使い方は第2回で解説します)。


データから導く「力の入れどころ」

ここまでの分析をまとめると、対策の優先順位は次のようになります。

事例Ⅳ(財務)

  1. 経営分析(第1問の鉄板)とCVP分析を土台として固める
  2. 投資意思決定(NPV・CF・処分価額・現価係数)を最重点で演習する ← 近年トレンド
  3. 計算は問題集で繰り返し、量を積む(第3回で詳述)

事例Ⅰ〜Ⅲ(財務以外)

  1. 「顧客」「強み」を軸に、与件文から根拠を拾う訓練をする
  2. 「強みを活かした新規事業×組織対応」の出題パターンに慣れる ← 近年トレンド
  3. 事例Ⅱはどちらが来てもいいようSWOT・3Cを両方準備する

続けて読む:シリーズの歩き方

この記事で「どこに力を入れるか」の地図は手に入りました。次は武器(フレームワーク)と練習法です。


この分析から生まれたアプリ「事例ドリル」

本シリーズの出題傾向分析・用語集・フレームワーク教材は、過去10年分の設問データをClaudeで分析して作成しました。そしてこの分析と学習法を、そのままiPadで実践できる形にしたのが、筆者が開発した「中小企業診断士2次試験事例ドリル」(iPad専用・買い切り・オフライン動作)です。

  • 過去10年分(2016〜2025年度)の与件文・設問を同梱(事例Ⅰ〜Ⅲ/出典:一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会)
  • 与件文とフレームワーク記入シートを2画面に並べて「仕分け」練習
  • 全設問にAI解答例(フレームワーク仕分け例+記述例)を同梱
  • ※事例Ⅳ(財務)は計算中心で学習法が異なるため対象外です。事例Ⅳは市販の計算問題集での反復をおすすめします(理由は第3回で解説)

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